レイ|同じ外出に、二つの提示順を用意する
物語の素材を増やさず、展開の候補を増やしたい時は、三つの場面を固定して提示順を変える試みができます。ここでいう展開は、読む人へどの場面を先に渡し、何をあとに残すかです。BASが作った架空の人物、ハルの短い外出を使い、二つの並びを用意します。作品の評判を予測する前に、自分がどちらの話を書きたいかを判断できる形まで作ってみます。
素材は「雨上がり、ハルは青い傘を持って家を出た。」「橋の上で、ハルは水たまりに映る白い雲をしばらく見ていた。」「夕方、ハルは一度も開かなかった傘を玄関に立てた。」です。出発、橋、帰宅と呼ぶ三場面は、作中ではこの順に起きています。人物、行動、場所、時刻の表現は変えず、比較する二案に三文を一回ずつ使います。
一案目は出発、橋、帰宅です。外出を時間に沿って示し、傘を置く所で文章を閉じます。二案目は帰宅、出発、橋です。帰ってきた場面を先に示し、その前の外出へ戻って、橋の景色で閉じます。二案目でも、ハルが帰宅後に橋へ行く設定には変えません。時刻と場面の関係が不明になったら、新しい説明を加える前に、元の三場面を確かめます。
比べる時は、最初に何が示されるか、途中で自分が何を知りたくなるか、最後の場面をどう受け取るかを書きます。帰宅を先にする案で、使わなかった傘が気になるなら、その読みを一つ記録できます。何も気にならなければ、それも記録です。この試みは、順番だけで別の候補を作るBASの提案です。並べ替えによる面白さや理解の改善を保証する手順ではありません。
レイ|次の候補は、別の場面から始める
二つの並びがあまり違って感じられなければ、橋の場面を最初に置く候補も考えられます。橋、出発、帰宅なら、水たまりの白い雲から入り、その景色を見ていたハルの出発へ戻り、帰宅で閉じます。先頭に来る物や行動は変わりますが、橋を訪れた理由を新しく設定する必要はありません。文の位置を一つずらして、別の入口を持つ案として読んでみます。
ただし、すべての並びを作りきることを目標にはしません。今回は「外出を追う入口」と「帰宅から外出をたどる入口」の違いがあれば、二案で比べ始められます。似ていると感じた時だけ、橋を入口にする案を足してもよいでしょう。候補の数よりも、どの場面を最初に見せたかったかを、自分の言葉で区別できることを目安にします。
始まりを動かすと、途中でまだ見せていない場面も変わります。帰宅を最初に置いた案では、傘を使わず戻ることがすでに分かっています。そこで「傘を開くのだろうか」という問いを、初めて読む人にも同じように残しているとは扱えません。自分が続きを考えるなら、どこへ行ったか、何を見たかなど、まだ文に出ていない所へ目を向けられます。
こうしてできた候補には、目立つ始まりを優先した案、最後の景色を先に決めた案など、作り手の意図を添えられます。これは読者の反応を確認した結果ではありません。自分が試したい形の違いです。静かな始まりが好きなら、その方向を選べます。驚きを大きくすることを共通の正解にせず、同じ素材をどんな流れで渡したいかから、次の一案を選びます。
レイ|並べ替えと、書き足しを一度分ける
比較の途中で「実はハルは傘を届けに行った」と一文を足したくなるかもしれません。その発想は別の物語へ育てられますが、元の三場面にはない用事です。足した文が気に入ったのか、順番が気に入ったのかを見分けるため、今回の比較では脇へ残します。まずは三文を同じ内容のまま動かし、その結果から選んだ案を保存してから、必要なら続きを考えます。
文章をつなぐ短い言葉にも気を配ります。「だから帰った」と加えると、前に置いた場面が帰宅の理由に見える書き方になります。「それから橋へ行った」と加えれば、読む順と出来事の順が同じだと示す場合があります。今回は接続の言葉も足さず、場面の文をそのまま移します。作中の原因や行動を変えずに、見せる順番だけを比べる範囲にとどめます。
確認する時は、二案の出発どうし、橋どうし、帰宅どうしを見比べます。青い傘が別の色になっていないか、白い雲が鳥になっていないか、傘を開かなかったことが抜けていないか。文が長く感じても、片方だけ短くしません。文を直したくなったら両方に同じ修正を入れ、改めて読めます。比べる時点で、三場面の内容がそろっていることを確かめます。
内容がそろっていても、読み味が変わらない場合はあります。それを隠すために事件や気持ちを補う必要はありません。今回は順番だけでは選びたい差が見えなかった、と置けます。逆に、帰宅を先にした時だけ外出を振り返る感じがしたなら、自分の感想として残せます。書いたことと自分の解釈を分けておくと、次に変えたい所も選びやすくなります。
レイ|残したい終わりから、一案を決める
小さく試すなら、自作の架空の三場面を選び、文を変えない二案を作ります。それぞれを一度読み、始まりで示すもの、途中で自分に生まれた問い、終わりに残った景色を短く記録します。ハルの例なら、出発、橋、帰宅と、帰宅、出発、橋を比べられます。読む順が違っても、作中では出発して橋を訪れ、夕方に帰るという流れを保ちます。
選ぶ理由は、今回作りたい短い話に合わせます。外出の区切りを見せたいなら、帰宅で終える案が自分の意図に近いかもしれません。景色を見ている途中で文章を閉じたいなら、橋を最後に置く案を選べます。これは結末が優れているという採点ではありません。今の自分が、どの場面で読み終わりたいかという選択です。選ばなかった案も残せます。
ここでは、橋の白い雲で閉じる意図から、帰宅、出発、橋を一案にします。できた短い物語を読み返し、最初に考えた「使わなかった傘が気になる」という読みと、最後の景色が自分の中で両立するかを見ます。傘の理由を必ず回収したいと感じたら、元の三場面だけでは足りないことも分かります。その時は案を保留するか、内容も変える次の作業へ進むかを選べます。
最後に、最初の並びから何を変え、何が同じだったかを一文で振り返ります。「出来事は同じで、玄関から入り橋で閉じる話を選んだ」と残せば十分です。誰かに読んでもらう場合も、相手の感想はあとで知るものとして扱います。今の記録を読者全体の評価へ置き換えず、自分が試したい一案として残します。二案を作った所で止めることも、選び直すこともできます。


WAVE A|THINKING