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HISTORY · レイ

コース|価格メカニズムだけでは企業内の指揮を説明できない

1930年代の経済学では、市場の価格が需要と供給を調整し、資源の配分を導くという説明が大きな柱でした。価格が上がれば供給が増え、下がれば需要が動く。市場を外から眺めると、確かに多くの取引が価格を通じてつながっています。

ところが企業の中へ入ると、少し違う景色が見えます。工場の一工程ごとに、その日の相場を見て「この作業を誰に何円でお願いするか」を毎回決めるわけではありません。雇用や役割分担を通じて、一定の範囲では指示や計画によって仕事が動きます。コースは1937年の論文で、この市場の中に、価格以外で調整される“島”が存在する理由を問いました。Coase 1937

この問いが面白いのは、企業を当然の前提にしなかったことです。「会社があるから人を雇う」のではなく、なぜ会社という仕組みを使う必要があるのか。その説明として、市場を利用する際の摩擦へ目を向けました。ここから企業の存在と境界を、組織図ではなく調整方法の選択として見る道が開きます。

ただし、1937年の論文が現代のプラットフォームやクラウド、AI外注を直接論じたわけではありません。そこまで一気につなぐと、理論が便利な万能説明になってしまいます。まず原著の問いを残したうえで、「今の自分たちなら、どの仕事を市場で取り引き、どの仕事を組織の中で調整しているか」を眺める。この距離感が、古い理論を今へ持ってくる時の大事な作法です。

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STORY · レイ

コース|『外注すればいい』にもコストがある

「専門家は外にたくさんいるのだから、必要な時だけ頼めばいい」。小さな事業では、とても自然な考え方です。固定費を持たず、その時いちばん合う相手へお願いできる。外注には大きな柔軟性があります。

でも実際に頼む場面を思い出すと、仕事は発注ボタン一つでは始まりません。候補を探す。実績を見る。金額を聞く。納期を確認する。何を作ってほしいか説明する。修正回数や権利関係を決める。途中で認識がずれれば、追加の確認も必要になります。コースの原著は、価格を知ることや契約を結ぶことなど、市場を使うための費用が存在すると考えました。Coase 1937

ここで注意したいのは、現在よく使われる「検索費用・交渉費用・監視費用」といった細かな分類すべてを、コース本人の1937年の言葉として扱わないことです。後続研究で整理された概念もあります。それでも実務へ翻訳すると、取引価格の外側にある手間まで数えるという視点はとても強い。

たとえば同じデザイナーへ毎週依頼し、そのたびに背景説明を30分しているなら、その30分も取引の一部です。反対に、年に一度しかない高度な撮影を社内へ抱えるなら、設備や人材維持の方が重いかもしれません。「外注費が高い/安い」の一歩手前で、頼む前・頼んでいる間・頼んだ後に何回調整しているかを数えてみると、自分の事業で境界を動かすヒントになります。

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SYMBOLS · レイ

コース|企業が大きくなるほど内部調整費も増える

市場を使うたびに探して交渉するのが大変なら、会社の中へ入れてしまえば全部うまくいく——そう考えると、企業は大きいほど効率的になりそうです。けれどコースの議論は、そこでもう一度ブレーキをかけます。

企業内部には、内部なりの費用があるからです。人が増えれば、誰が何を知っているか分かりにくくなる。判断が上へ集まりすぎれば遅くなる。現場の事情を知らないまま資源を配分すれば、間違いも起きる。ルールを増やせば例外処理も増える。コースは、企業が取引を内部化していくと、追加の取引を組織する費用が上昇し得るため、企業が無限に大きくなるわけではないと考えました。Coase 1937

ここで見るべきなのは「大企業は非効率」という単純な話ではありません。市場で行うより内部で行う方が安い範囲もあるし、内部へ抱えたことで逆に調整が複雑になる範囲もある。境界は、その相対的な費用で動きます。つまり、外の摩擦を減らすために内へ取り込んだ仕事が、いつの間にか社内の摩擦を増やしていないかを見る必要があります。

事業が成長した時にも同じです。最初は一人でできた承認が、十人になると詰まる。共通ルールが便利だったのに、百人になると例外が増える。そんな時、「もっと内製する/もっと外注する」と先に答えを決めるより、いま増えているのは市場側の摩擦か、内部側の摩擦かを分ける。その診断が、企業の大きさそのものではなく、境界の健康度を見ることにつながります。

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REEDITING · レイ

コース|Amazonは『内部化』と『市場化』を同時に行う

コースの企業境界論を現代企業へ持ってくると、Amazonは少し面白い例になります。Amazonは自社で大きな物流・配送・決済・技術基盤を持つ一方、Marketplaceでは多数の第三者販売者が参加しています。つまり「全部を自社で持つ」でも「全部を市場へ任せる」でもありません。

2025年のAmazon Form 10-Kでは、Amazon自身が商品を販売する事業と、第三者販売者が商品を提供するサービスの両方が記載されています。またFulfillment by Amazonなど、外部販売者がAmazonの物流能力を利用する仕組みもあります。Amazon 2025 Form 10-K ここでは、企業の中と外がきれいに分かれるというより、能力ごとに境界が組み替えられています。

BASではこれを、コースの理論そのものではなく現代への応用レンズとして読みます。物流は内部能力として厚く持つ。商品供給では外部販売者を参加させる。クラウドのように、自社で培った能力を外部企業へ提供することもある。どこを内製し、どこを市場へ開くかを一枚の組織図ではなく、機能単位で見ると巨大企業の構造が少し分かりやすくなります。

ただし、コース本人がAmazonを分析したわけではありませんし、Amazonの規模や成功を取引費用だけで説明することもできません。顧客需要、技術、資本、競争、規制など多くの要因があります。それでも、自社の事業を考える時に「全部持つべきか?」ではなく、顧客体験のどの部分は自分たちで調整した方がよく、どこは外の専門性や参加者へ開いた方がよいかと問い直す材料になります。

たとえば、最近外へ頼むか迷った仕事が一つあれば、それが考える材料になります。下の「3人と相談してみる」で、レイたちと調整の手間や大切にしたい品質を分けてみることもできます。